ぼくの基本的な旅のスタイルとしては、宿に関しては安いに越したことはないという考えです。プライベートな空間と布団と、あとゼイタクを言えばウォシュレットがあればもう最高です。ただそれは宿にいる時間があまり無い鉄道旅の場合で、宿そのものを楽しむときは勿論宿にこだわりたいものです。
関西を旅行するにあたっては、新今宮あたりのドヤを定宿としていましたが、ふと思いついて日頃から気になっていた宿が予約できたので、泊まることにしました。奈良にある『静観荘』です。
この風格にもかかわらず、一泊4200円(宿泊当時、素泊まり)とかなりの安さです。
静観荘は元・遊郭ということもあり、建物にはその意匠があちこちに残っています。現代のコスト第一なホテルと比べると非常に贅沢な作りです。
まず、部屋に通されました。暑い時期でしたが、結構風が入ってきます。これは昔の建物に共通する自然な心地よさです。窓からは中庭が臨め、不思議とシュロの木もマッチします。
一息ついたところで館内を見学します。2階の客間の廊下です。
この日は他に2、3組の宿泊客がいたようです。外国人の客も多いようで、英語の案内なども館内にちらほら見えます。いかにも遊郭!な飾り窓が粋です。ちなみに各部屋は飾り窓と同じ名前がついていました。
次は1階です。中庭を眺めながら風呂場とトイレのある廊下を歩きます。菱形の窓が風呂場の窓です。
風呂場は男女1つずつあります。この日は近くの銭湯で済ませてしまったので使いませんでした。
トイレも1階2階とあり、こちらは1階です。2階だけ使ってこちらは一度も使いませんでした。
中庭には橋がかけてあり、これまたカッコイイです。でもちょっと痛んでます。また池の水はこの日は張ってなくて、ヤブ蚊が沢山いました。
風呂場の向こうは立ち入り禁止区域でした。建物も傷んでいて、ちょっと危なそうでした。
ロビーの写真、仏像マニアにはたまらない面々なのでしょう。個人的には超レトロな扇風機が気になりました。
夕飯は、静観荘から15分ほど歩いたコメダ珈琲で済ませました。朝食は事前にお願いしていたので、別料金で和食をいただきました。素朴ながら十分な内容です。
チェックアウトの際、支配人にお話を伺いました。
この宿は海外バックパッカーの客が多いそうです。ロンリープラネットか何かに紹介されたのでしょうか。そういえばbooking.comでも見かけた気がします。
遊郭時代の話も聞きました。遊郭というものに対するイメージは、やはり世代によって大きく異なるようです。ちょうどぼくらのような若い世代は、知らない世代への郷愁のようなものでぼくのような「好き者」がネットやらで調べてよくやってくるそうです(ぼくもその一人ですね)。反対に現役を知っている世代からは、やはり良い目では見られなかったそうです。
また現在フロントとなっている場所も若干の改装の痕跡があり、当時はもっと広いスペースだったそうです。そのほか、当時のこのあたりの街の様子なども教えていただき、結局チェックアウトは当初予定より30分以上遅れることになりました。最後は、支配人と、あとおそらく跡取りさんでしょうか、若い男性が快くお見送りしてくれました。
率直に言うと建物は古く、どうしても清潔とは言い切れない部分もあります(掃除をサボってるとかそういうわけではないです)。潔癖な方には向かないでしょう。また、この界隈は本当に静かな街で、お店も殆どなく、夜出歩いたりといった楽しみは無いでしょう。そういったものを期待する人にも向かないと思います。
支配人とお話をしているときも見学希望の人が中を見せてもらっていたので、宿泊しなくてもこの宿を見せていただくことは可能かもしれません。が、できたら是非一泊してみてほしいです。文字通り、自分自身を静観してみる、そんな休日にぴったりかもしれません。こういう宿の部屋でひとり酒を飲むなんて最高なんでしょうね。ぼくは飲めないので水飲んでましたけど。
【データ】
住所:奈良県奈良市東木辻町29
チェックイン15:00 チェックアウト10:00
公式サイト
取材時期:2012年6月